11月佛教講話会報告
【講 師】 東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授・文化人類学者 上田 紀行先生
【演 題】 『 立て直す力 』
生きることが何故、苦しいのか。
それは思う通りにいかないからで、その苦の中で、常にもがき続けている。
しかし私たちは人生の中の挫折や、苦しみを立て直す力がないといけない。
そして「苦」があることで人生が深まっているのだと、逆に気付くことが大切だ。
さあ、もう一度、生き直してごらんという人生のメッセージが「苦」なのだから。
外国人にとって、宗教は人生を支える大きな力となる。
どんな苦しみがあっても、失望しても神様のお導きの下、自分は幸せになれると信じている。
しかし日本人には、この支えとなるべき宗教がない。
スリランカの初代大統領J.R.ジャヤワルダナ氏は、サンフランシスコ講和会議において「人はただ愛によってのみ憎しみを越えられる。人は憎しみによっては憎しみを越えられない」という釈尊の法句経を引用し、列強による日本の戦後処置に一考を投げかけた。
彼は事前に訪れた日本の悲惨な現状を見て、その中にあっても懸命に生きていこうとする日本人の精神的支柱を佛教が大きく支えていることに感動する。
それが講和会議での発言に繋がっていくわけだが、戦後復興の中、彼が尊敬した日本人の精神が徐々に欠落していくことに失望していくことになる。
日本は何を失って来たのか。
第一敗戦は終戦、第二敗戦は、バブルの崩壊、第三敗戦で信頼、安心の喪失。
他人の目を気にして、常に評価を求め、自分は他人からどう思われているのかネットでチェックし、その期待に応えようと行動する。
ネット社会になり自由に何でもできると思っていたけれども、逆にがんじがらめになっているという現実。
しかし他人からどう思われようとも、自分の「志(こころざし)」の下、自分のやりたいことをやっていく。他人からの評価を気にする必要はないのだ。
人生の中で不幸と思った「縁」も、辿ってみると、それがきっかけで人生が転変していく。
不幸と見える苦しみも、案外、その人の種になり得るのだ。
脛に傷がある・・・むしろその傷こそが重要だ。