今年の夏は、昨年以上に厳しい暑さの日々が続いたように思う。
「北海道はクーラーがないんだって」
髄分以前、人からそのことを聞かされた時には大いに驚いたが成程、北の国の夏は短く、爽やかなのだと思った。
その北海道ですら今年の夏は、熱波の夏だとニュースで盛んに報道されるのを聞き、この先の気候の変化に不安を感じている。
うららかな春、という季節は遠い昔のことになりそうだ。
そんな夏の暑さの中で、「畑で出来たから」と立派な冬瓜を頂いた。
学生時代、初めてこの冬瓜を食べた。
それまで我が家の食卓には一度も登場したことがなく、こんな食べ物があるのかと驚いて母に話したら、戦後はよく食べたからということだった。
要するに冬瓜について、あまり良い記憶がないらしかった。
ところが、そんなことを知らない私は冬瓜を初めて頂いて大いに感激した。
なんと美味しい食べ物なのだろうかと、そのトロリとした食感に感動した。
下宿先で頂いた冬瓜は、細かく刻んだ海老入りの出汁を薄味に整え、葛を引いてとろりと冷たく仕上げてあった。
小鉢に入った冬瓜のテッペンには刻み生姜が載せてある。
夏の暑さの中で頂くには最高のご馳走だった。
美味しい、美味しいを連発する私に大家さんは、
「海老ではなく、鶏ミンチでやっても美味しいのよ」
と教えて下さった。
以来、夏になり店先に冬瓜が並ぶようになると真っ先に買って炊く。
教えて頂いたように海老や鶏肉で仕上げることもあるし、温かくして頂くときには醤油を多くして少し濃いめの味に豚ミンチで仕上げることもある。
椎茸出汁で、ショウガを利かせて人参、たけのこ、牛蒡、こんにゃく、椎茸、オクラを入れてお汁にすれば、夏バテも吹っ飛んでしまうような我が家では人気のメニューだ。
シャキシャキッとした食感も嬉しいが、とろりとした食感も又、乙なもので口福とはこういうものかと思ったりする。
冬瓜自体には味も何もない。
別段特徴だった旨みがあるわけでもない食材なのだけれども、一旦火が通り、ショウガと出会い、たくさんの具材と一緒になると本領発揮するというのが、この野菜の不思議なところだ。
いったい君の特徴は何だね?と冬瓜に尋ねたとしても返事は、「さあ」としか返って来ないだろう思えるほど、あやふやで頼りがいのない野菜なのだが、不思議と美味しい。
現代、個性、個性とかまびすしいほどに言われる。人と変わった特徴がなければ価値がないように追い込まれてしまう。
でも、世の中には何の特技もなく、平凡で、個性的でもない人間も多い。
その平凡な人間が冬瓜的に他との関わりを持ったとき、その人間は、どんな変化を遂げていくのだろうか。
魅力は平凡の中に隠れている。
個性的なこともいいが、冬瓜的な生き方も、また乙なものではないだろうか。