何気ない言葉で勇気づけられたことがある。
母が亡くなったとき、葬儀を手伝いに来て下さった方から掛けられた言葉は、その後何かに付け私を励まし続けた。
その朝、受付の準備をしている彼女の所に行き『おはようございます。今日は、お世話になります』と挨拶をした。
すると、彼女は、
「これから一緒にがんばりましょうね」
と声を掛けてくれた。
親を見送った者に対してひどく同情する様子でもなく、無理に励まして鼓舞する言葉でもない。
ごく自然に、ゆっくりと共に歩いていきましょうねといった普段と変わらない言葉だった。
その時、私は一緒にこれから歩いてくれる伴奏者をみつけたような気がしていた。
短い言葉だったけれど、何となく気持ちが落ち着いて緊張が解けていくような気もした。
初めて自分は少し不安だったのだと、そのとき気がついた。
それから何かあると、いつもこの言葉を思い出す。
そして気がつかないうちに傾いていた自分の心をもう一度元の位置まで揺り戻す。
何気ない言葉。
軽く見過ごしてしまいそうな言葉に私たちは助けられることもある。
そこに込められた思い。
発する者も気がついていないものが、言葉の中にある。
「おはようございます」
「こんにちは」
「さようなら」
単に習慣で使っていると思えるような挨拶言葉の中にも。
偶然出逢った懐かしい人に
「あ、お久し振り.元気だった?」
ほんの小さな何気ない言葉の中にも、相手の心を支え、勇気づけてくれる小さな力が宿っている。
『大丈夫』
鏡の中の自分にそう言って言葉を掛けてみる。