風が急に冷たくなって秋が深まる。
境内の菩提樹の葉が黄色に変わり、乾いた音を立てて散り始めた。
近くに植わっている柿の木も真っ赤に葉を染めて、土の上に葉を落としていく。
風が吹くたびに葉が音を立てる。
風音と、落葉が舞い散る音が重なって、響きの中で秋はますます深まっていく。
初冬の訪れ。
朝起きて、室内の掃除をすませた後、境内の清掃に取り掛かる。
熊手と箒、塵取りにごみ袋を持つ。
落ち葉が掃き集められ、熊手でかいた筋が模様のように境内に描かれる。
菩提樹は樹齢百年以上経つ老木だ。
それでも空いっぱいに枝を拡げ、梅雨時は甘い花の香りを放ち、真夏には白い土の上に涼やかな影を作る。
秋になるとプロペラ状の羽に実を付けて、風の中を舞い落ちていく姿は美しい。
そして初冬には、枝の隅々まで繁らせた葉を惜しげもなく散り落としていき、冬になると葉が一枚もない裸木になる。
冬の雪の中、その枝だけになった裸木が白黒の世界の中で孤高を極めたように立っている姿は本当に美しい。
菩提樹の種類はたくさんあり、佛教生誕の地インドの菩提樹はまた違うのであろうが、この菩提樹を見ていると、その樹下でお釈迦さまが静かに坐禅をされ、お悟りをひらかれた姿をふと想像してしまう。

日曜日の朝、友人に誘われてフリーマーケットに出掛けた。
「本当に拾いものがあるのよ」
という彼女の絶対に押されるようにして出掛けて行ったが、生憎好みのものには出合うことはなかった。
「今日は不作だったわ」
とブツクサ言う彼女の言葉を聞きながら、ふと見るとマーケットの一角にはしっかり今日の収穫品が数点並べられている。
「私ねえ、今、断捨離してんのよ。だからこの間、フリーマーケットに全部旅行鞄を出したんだけどね、考えてみたらやっぱり必要かなって思って・・・」
大きな手提げ鞄2個と、そして洋裁用のトルソーを抱えて帰ることとなった。
趣味人の彼女のマンションは、ありとあらゆる物で溢れていた。
「もうねえ、私も身辺整理をしなくっちゃと思って、ここのところ整理してんの。」と話しながら、その割には片付かないんだけどとこぼす。
そして、傍らに置いてある私物を持って帰れと盛んに言う。
「じゃあ、これを頂こうかな」
と言うと、そういう割には、
「あ、これはちょっと駄目ね」
という。

結局、私の欲しいものは見つからなかったので、彼女の薦める物は全て固辞して帰った。
フリーマーケットに断捨離と称して物を売り、身辺整理をしているつもりが、また同じフリーマーケットに出掛けては安い、安いと言って買ってしまう。
本当に悪循環なのよと、別れる時に彼女は笑って言った。
他人ごとといってしまうのは容易いが、自分も全く同じだ。
何を捨て、何を生かすか、いつも迷う。
捨て切ることは難しい。
菩提樹の木のように捨て去った裸木の姿は孤高として美しい。
けれども初冬の風の吹く中、舞い散る葉は、掃いた先から積もっていく。
人の欲も際限なく生まれ、掃いても掃いても散り積もる木の葉のようにこころの中で積もっていく
結局、欲望も悩みもなくすことは出来ない。
出来ないけれども、散り落ちた葉を掃いていくようにこころの中を掃き清めていく。
こころの中に掃いた熊手の跡が美しい模様に残るように努めていくことが出来ていければと思う。