「重ねる」という言葉をここのところ考えていた。
例えば歳をとったというと、ひどく自分が年寄りになったというイメージがある。
「ああ、自分もいつの間にかこんなに歳を取って」
「歳を取って、体のあちこちにガタが来まして」
などとよく聞く会話だ。

「取る」というと、どうもマイナスなイメージ、どんどん自分が卑屈な思いに捉われていくような気がする。
アンチエイジングという言葉がここ数年急に注目され始めたが、これなどは正に負のものに対して対抗していこうとする力みが感じられる。
目に見えぬものに対する恐れが心の底に潜んでいて、その恐怖心が攻撃的に動いている。
歳を取ることは悪いことばかりではない。
もっと力を抜いて受け入れていけば、より多くのものを感じ、体験していけるのではないか。

そう歳を取るのではなく、歳を重ねるのだ。
「歳を重ねて、相応の落ち着きが出て来た。」
「歳を重ねて、あの俳優も渋みが出て演技にも深みが感じられるようになった。」
重厚な・・・というイメージが言葉の中で膨らんでいく。
一枚一枚薄い紙を重ねるように、重なっていく時間。
その重なっていくものの中に何が含まれているのだろう。

なにも特別な事柄でなくても良い。
なんてことのない平凡な時間。
その中に気が付かない、でも大切な事柄が入っていると信じたい。
しんしんと降り積もる雪のように、静かに、ゆっくりと、降り積もり、重なっていく。
その同じ繰り返しの中で、知らぬ間に自分の中に年輪は刻まれ、自分という樹が育っていく。

重ねる。
静かに時は、重なっていく。
一呼吸の中に、小さな一歩の中に、「おはよう」という挨拶と笑顔の中に、降り積もり、重なっていく。
今年は何を自分の中に積み重ねていくのだろうか。
時間という空間の流れの中に静かに自分を解き放ってみる。
力まないで、自然に、緩やかに。
新しい歳の一歩。