重宝して使っている付箋は、製作会社側から言えば失敗作が始まりだったということを聞いたことがある。
粘着力の悪い不良品が出来上がり、はてさてどうしたものかと思案した結果、あのポストイット(付箋)に結びつき、大ヒット商品に成長したというのだ。
粘着力が弱いという弱点を逆手にとっての製品化。
9回の裏、逆転ホームランというような爽快で愉快なエピソードだと思った。

さて、料理は卵に始まり、卵に終わるという。
そのまま茹でれば、ゆで卵。
ポンと割って焼けば、卵焼やオムレツ。
熱々ご飯にかければ、卵かけごはん。
料理の万能選手である卵ではあるけれど、結局、単純な料理ほど難しいということらしい。
確かに、私自身、腑に落ちるところがある。
ゆで卵の茹で加減、オムレツをふんわりと仕上げる火加減。
簡単なようで難しい。
目玉焼き、最も苦手な料理だ。
ポンと割り入れるだけなのに上手くいったためしがない。
我が家の場合、いちいち一人ずつは焼かず、忙しい朝、大きめのフライパンの中に家族全員の卵を割り入れる。
1個、2個、3個・・・
必ず一つは割れてしまう。
どんなに慎重に割ろうが、上手くいった!と思った瞬間、フライパンの中で黄身が広がり始めるのだ。
不思議なことに初めから卵を攪拌する料理の時には、いくつ割っても黄身が破れることはない。
それなのに目玉焼に限って、必ず一つは黄身が破れてしまう。
崩れてしまった卵を見ながら「まあ、仕方がない」と思い直して、塩と胡椒をふる。
水を少し加えてふたを閉める。
その間に副菜の用意。
野菜を刻んで、ざるに上げ、盛り付け皿を用意している間に気が付けば卵は固まってしまっている。
完璧に白く、固い。
ああ、今日も失敗した。
やっぱり卵焼は傍に付いていないと出来ないのだろうか。
次はタイマーでもつけておこうか。
食卓に並べながら、いつもの言い訳。
「ちょっと固めだけど・・・。失敗は成功のもとというから」
その言い訳は聞き飽きた。
家族の無言は、それを物語っていた。