こころ中で「あっ!」と思ったことを大事にしよう。
夏の終わり、朝起きて窓を開け、今日一番の風を入れる。
「あっ!」
いつの間にか風が秋を運んで来ていた。

洗面をする。
水道の蛇口をひねって水を出す。
「あっ!」
冷たい。
水道管を伝わって出て来る水が、夏は熱いくらいだったのに変わってきている。

玄関前の掃除をする。
樹の根元に薄桃色の花びらが落ちていた。
「あっ!」
視線を上に転ずると、秋空の中で山茶花一輪咲いている。
夏の暑さは過ぎ去り、月日は静かに冬へと向かっていたのだ。

新しい本を開いて読み始める。
初めて出逢う作者。
どんな作品を描く人なのだろう。
そのことばは、どんな世界を描いていくのかドキドキしながら読み進める。
「あっ!」
沁み出してくる思い。
こころの奥底で「コトン・・・」と音がして、静かに波が広がる。
しみじみと味わう文章。
思わず身体が前のめりになっていた。

スーパーに買い物に出掛ける。
陳列棚を眺めながら野菜の顔触れが変わって来たのを感じる。
「あっ!」
棚の前に栗が並んでいる。
菜物も、大根も、今から美味しくなる。
秋が来たのだ。

夕飯に魚の塩焼きを頂く。
レモンを絞ってかける。
タイミングを計ったように手拭きを家人が渡してくれる。
「あっ!」
優しさは、心遣いという形になって人を包んでくれる。

「あっ!」
平凡な日送りの中で私のこころは、「あっ!」で静かに満ちていく。
私の大事な宝物。
小さな発見を温めながら今日の一日を振り返る。