「 真実を見つめる 」
令和という新しい時代を私たち多くの国民は、大きな期待と希望を持って迎えたことと思います。
特に本年は五十年ぶり、戦後二回目のオリンピックが開催されるということで誰もがワクワク胸躍る気持ちで迎えたはずでしたが、その思いはコロナという目に見えない小さなウィルスによって全てひっくり返されてしまいました。
全く誰もが想像もしなかった出来事です。
その猛威は、あっという間に全世界に拡がり、大勢の人の命を奪い、今なお闘病を余儀なくされる人たちが沢山おられます。
困難を抱え治療の最前線で仕事に従事されている人々、様々な分野の人たちのご苦労を思うと感謝の気持ちでいっぱいです。
しかし思いとは逆に三月、四月と時が過ぎ、感染者数は日々増え続け、私たちは次第に不安の渦に飲み込まれていきました。そんな一連のコロナ騒動の中で、人の様々な姿を見せて頂いたように思いますし、勿論、自分自身のこころの動きを観察しながら反省したり、人様の思いに感心したりと多くの学びを頂いた期間となりました。
お釈迦さまの教えに八正道(正見・正思惟・正語・正業・正命・正精進・正念・正定)という私たちが人として正しく生きて行く為に実践すべき八つの教えがあります。
正しく物事を見、それに基づいた考えをする。
こころを静かに整え、落ち着かせ、浄らかにしていく。
こうしたいのちの働かせ方をした生き方をしていこうというのが八正道(はっしょうどう)の教えです。
しかし、パソコンやスマホが普及した現在、大変なことが起こっているように思えてなりません。例えば、コロナ騒動の中で物不足状態を起こしたのはスマホに依る情報拡散でした。少し前までは、噂ばなし、所謂「げなげな話」が拡がっていたわけですが、伝わり方の速度、広さは限りがありました。しかし現在、スマホ等による拡散は、瞬間的に日本中、否、世界中に拡がってしまいます。しかも言葉だけでなく、映像まで一緒に拡がるわけですから、その情報を簡単に信じてしまう、信じさせてしまうという怖さがあります。
そして一旦、ネット上に上がった情報は消すことが出来ないというのも恐ろしいことだと思います。
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佛教のお話の中に『ジャータカ物語』というのがあります。
その中に「あわて兎」の話がありますのでご紹介したいと思います。
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或る時、ヤシの林の中のビルドの木の傍で一匹の兎が昼寝をしていたところ、突然、バリバリ、ドーンという大きな音と地響きが起きました。
それに驚いて飛び起きた兎は、何を思ったのか「大変だ、地面が割けたぞー」と叫びながら逃げ出しました。
その兎の姿を見、声を聞いた動物たちも慌てて「大変だ、大変だ、大変なことが起きたぞ」と追いかけるように次々に逃げ始めました。もう大変な騒ぎです。その様子を少し小高いところで見ていたライオンが「ウォー」とひと声上げて「何事が起きたというのだ」と動物たちに問い掛けたところ「何か解らないけれども、大変なことが起こったらしいのです」
「地面が大きく割れてしまったようです」とみんなが口々に答えました。
「ところで、お前たちは、それを見たのか?」
と、ライオンが問いただすと動物たちは誰もが「その場所も知らないし、割れた所も見ていません」と答えました。ライオンは動物たちに此処で待っているように言って、兎を背中に乗せ、大急ぎでヤシの林の中にあるビルドの木の所まで行ってみました。
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ヤシの林は、いつものように静かに風の音だけが聞こえていました。
そして木の近くに大きなヤシの実が転がっているのを発見したライオンが、
「兎よ、お前はビルドの木の枝が折れた音と、大きなヤシの実が落ちた音や地響きに慌ててしまった。落ちたヤシの実を確かめることもなく騒ぎ立てたお前は、皆に詫びを言わねばならない」と、再び、動物たちの待っている所に帰り、こう言いました。
「何事も起こっていない。兎の思い違いであった。しかし、お前たちも真実を確認せず、大騒ぎをしてしまったのは、慌てた兎と同じこと。何事も本当の事を確認せぬまま扇動されてはならない。」
と動物を諭したというお話です。
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現代は情報社会。
居ながらにして自分の知りたいことを瞬時に知ることが出来ます。
欲しいと思った物も出掛けなくても、自宅に居ながら取り寄せることが出来る便利な時代になりました。
しかし便利なものは常に諸刃の剣であることを忘れてはならないのです。
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いろいろな所から様々な情報が寄せられ、時には何が何だかわからないこともあります。
情報を整理し、どの情報が正しいのか見極める力を付けていかねばなりません。
そして情報を発信する時に、たとえそれが仲介であっても責任を持った発信でなければならないと思います。その発信が多くの人を悲しませたり、苦しめたりすることがあるかもしれないからです。情報社会は、自分が被害者になるだけでなく、知らぬ間に加害者になっていることもあり得るのです。
今回のコロナ騒動で、多くの学びを頂きました。
一日も早く治療薬が提供され、日本中、世界中が安心できる時が来ることを祈りつつ、
皆様どうぞお大事にお過ごし下さい。
合掌
神応院住職 西村 英昭