いつの頃からだったか、何に掲載されていたのかすっかり忘れてしまったけれども、心に響いた谷川俊太郎氏の詩を今回は紹介したい。

影と海

私がだれかを傷つけるとき 苦しむのはこの私

あなたがだれかを苦しめるとき 

傷つくのはそのあなた

苦しみも傷もついてくる 影のようにどこまでも

私がだれかを喜ばすとき 幸せなのは この私

あなたがだれかを幸せにするとき 

喜ぶのはそのあなた

幸せと喜びは歌っている 海のようにいつまでも

谷川俊太郎著

 

『すこやかに おだやかに しなやかに』

皆さまは、どう感じ、受け止められるでしょうか。

今、アメリカは世界中が注目する四年に一度の大統領選挙が始っています。

また日本でも自民党の総裁選、野党の党首選も動き始めました。

アメリカの大統領選挙は大変長期間を要し、選挙運動費用も想像を絶するものがあるようですが、これは支持者を始め企業、団体等の寄付で賄われるようですが候補者の資金力も並大抵ではないと想像します。

そうした国を挙げてのお祭りのような中で互いの候補を攻撃し、中傷し、平気でデマを飛ばし相手を落選させる為なら何でもやってしまう。

勿論、マスコミの報道に依る知識だけの判断ではあるけれども「国民ファースト」と言いながら本当に国民の事を考えているのだろうかと疑いたくなってしまう。

挙げ句の果てには「選挙結果には従えない、無効だ」と、それに支持者は共鳴して暴動を起こしてしまった前回選挙。

いったい自由とは何なのだろうと考えさせられました。

どこの選挙でもどんな選挙でも相手に勝つ為に必ず相手を誹謗中傷する。

これは何事においても、己が勝つ為の手段なのかもしれないし、戦いの鉄則なのかもしれない。

でも己の優れている所を強調し主張することは良しとしても相手の非を追求する事に走るのはやめることにしてはどうだろうかと思いもするのです。

只、静かに自分の心の中を覗き込んでみた時、自己顕示欲というのは誰にでもあると思うのです。

あの小さな乳児でさえ自我をしっかり主張します。他を払いのけようとします。

と同時に自分の方がわずかでも上(生まれた歳が上)だと感じた時は先輩ぶって世話をしようとする動きをみせてくれます。

そうした両面を持ちながら人間関係を構築していくのだと思います。

でも子どもの頃は、そうした行動も可愛いもので良いのですが、年を重ねるにつれて、欲が膨らみ権力を握ると勢力範囲を拡げたい、その座を守りたいという欲望がどんどん重なり沸きおこり大変なことになって行くのでしょう。

そうした姿を世界のあちこちで今、私達に見せてくれています。

人間と言う動物の一番醜い姿を見ながら私達一人々々が自分の中にもこうした欲がたとえ形は違っているにしてもうごめいているのだと自覚して行かねばならないのだと思うのです。

冒頭にあげた谷川俊太郎氏の詩でこうした自分を、自分の心の奥底を見直して行く一つの指標として感じて頂ければなと私自身の反省も含めて思います。

人間の進歩向上の為にも生活環境の向上にも「欲」というものが同居しているのです。

欲というものが、存在しているお陰で、楽しくも美しい平和な生活が存在出来るのですが、その欲のコントロールの仕方を誤ると手が付けられなくなる程暴走してしまう危険な存在でもあるのだと、しっかり心して参りましょう。

 

合掌

神應院住職 西村 英昭